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同じ景色を見ているか

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train
先日、『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』
(金谷武洋・著、飛鳥新社)という本を読みました。

カナダの大学で25年間日本語教育に携わった著者が、
日本語と西洋語の根本的な違いをさまざまな角度から指摘しています。
その中で、翻訳に関する興味深いエピソードが紹介されていました。

20年程前にNHKの「シリーズ日本語」という番組で行われた実験です。
川端康成の名作『雪国』の一文とその英訳を取り上げ、
果たして原文と訳文が同じイメージを伝えているかを検証しています。

「国境の長いトンネルを抜けると、雪国であった」
この文章から私たちはどんな景色を想像するでしょう?

主人公は汽車に乗っている。
汽車はトンネルの暗闇の中を走っている。
少しずつ窓の外が明るくなり、
長いトンネルをようやく抜けると、
まぶしいばかりの銀世界が広がっていた。

まるで動画のように、「汽車の中」にいる主人公の視線を
追体験したのではないでしょうか?

The train came out of the long tunnel into the snow country.
これは、翻訳家として多くの川端作品を手がけている
E・サイデンステッカー氏による英訳です。

番組では英語のネイティブスピーカー数名をスタジオに招き、
この英文から思い浮かぶ情景を絵に描かせます。
その結果、訳文が伝えるイメージはまったく異なるものでした。

汽車の中からの風景を描いた人は一人もおらず、
全員が同じように上空からのアングルで、
「山のトンネルから列車の頭が顔を出している」
静止画のような絵を描いたのです。

説明的な長い英訳とすれば、原文に近い描写は可能かもしれません。
しかし、別の言語で簡潔に真意を伝えることがいかに難しいか、
深く考えさせられました。

折しも、パリではCOP21の議論の真っ只中。
実務者レベルの交渉で、地球温暖化対策において先進国と発展途上国が
担うべき責任をめぐり、意見の対立が続いているようです。

無数の言語を母語とする世界195カ国・地域の代表が、
「産業革命前と比べた気温上昇を2度未満に抑える」というシナリオに
どれだけ共鳴し、地球の未来に同じビジョンを描けるか。

言語を超えて、未来へとつながる合意の成立を
願わずにいられません。

Photo by Kecko

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