翻訳を仕事としていると、英英辞典をよく使います。
著者の年齢やトピックの時代背景によって、
同じ言葉でも意味が違ってくることがあるからです。
2015年6月と9月にOxford English Dictionary(OED)が改訂となり、
6月には約500の新しい言葉が追加され、900以上の言葉が改訂・更新され
9月には、また新たな言葉が何百と追加になりました。
6月の改訂のプレスリリースでは、グローバルな英語や
ジェンダー・アイデンティティーに関するが言葉が
今回の改訂の特徴として取り上げられています。
そんな話を、翻訳仲間でもある友人としていたところ、
通訳を担当するので、と10月にアムネスティインターナショナルが主催する
スピーキングツアー「自分らしい性を生きる~LGBTIの「私」が命をかける理由~」
を教えてもらい、参加しました。
そういえば、ニュースなどで情報は得ていても、
当事者の方からお話を聞いたことがないと思ったからです。
南アフリカで活動を展開しているファドツァイ・ミュパルツァさんは
差別や暴力、低年齢での強制結婚などをなくそうと、被害者を支援したり、
差別的な法の改正に携わったり、被害者を保護するシェルターの役割を果たす
団体とも連携を取るなど、まさに奔走しています。
ファドツァイさんは、自分はクィアだと言うことが
今はしっくりくる(comfortable)そうです。
当日配布された資料に、LGBTI(Q)の説明があり、
最近新たな意味で使われるようになった「Q」の解説がありました。
クィア(queer)
多数派とみられる性の規範から外れる人
クエスチョニング(questioning)
自らの性のあり方について、明確なアイデンティティを持っていない、
あるいはより前向きに持たない人。
OEDのqueerのセクションでは、インフォーマルな意味として、
2.1に上記の内容が書かれています。
用法を見ると、19世紀、異性愛者が同性愛者を侮蔑的に呼ぶ言葉でしたが、
1980年代にゲイの人々がポジティブな意味合いで使い始め、
現在はさらに広い意味で、上記の様に使われるようになったとあります。
そして、私たちが暮らしている現代の2015年、
自らのセクシャル・アイデンティティを人に伝える際に
多数派とは違うそれぞれのジェンダー・アイデンティティ LGBTI と、
それを1つにまとめる Q のどちらもが、使われています。
かっこでくくって後ろに置かれているのも、そういう理由からですね。
今まさに変わりつつある言葉に触れて、
それを仕事としている自分は、大げさに言えば時代の証人の心持ちがします。
日本のダイバーシティや女性活躍推進の文脈でよく
「男女の違いに関わりなく管理職に」といったフレーズを見ますが、
もうそろそろ「すべての従業員が管理職に」と
表現する時代が来ているように思います。
(つづく)
Photo by lisamikulski