先日、障がいのある方が働く特例子会社に関する記事の英訳を
お手伝いする機会がありました。
その会社では、さまざまな障がいをもつ社員と障がいをもたない社員が、
同じ職場で同じように働いているといいます。
翻訳の過程で、(健常者を前提とした表現になっていないか)と
立ち止まった箇所がいくつかありました。
その中から2つご紹介します。
文1:「“XXの仕事をしている”と胸を張って話せます」
英語では、「胸を張る」を意味する次のような表現があります。
- stick out one’s chest: 得意げに胸を突きだす、胸を張る
- stand tall: 堂々とする、胸を張って立つ
例えばこうした表現を使って文1を訳すと、次のようになります。
- I can stick out my chest and say, ‘I do XX.’
- I can stand tall and say, ‘I do XX.’
しかし、この文の主語は同社の従業員。
できるだけ身体的な表現は避けたいと思いました。
そこで、「胸を張って」→「自信をもって」と言葉を変えて、
次のように訳しました。
I can say with confidence, ‘I do XX.’
文2:「これらは誰もが心がけ次第でできる施策です」
オフィスで取り組む環境施策について述べています。
「不要な照明を間引く」、「エアコンフィルターを掃除する」と
例を2つ挙げたうえで、文2へと続きます。
文字どおり訳せば、次のようになります。
- They are things anyone can do, as long as they keep it in mind.
しかし、本当に「誰もが」できる施策でしょうか?
例えば車椅子の方など、実際に作業を行うのは
難しい方もいるかもしれません。
本当に誰もができるニュアンスを伝えたいと思い、
そのような方でも可能な貢献に思いを巡らせ、
思い切って次のように言葉を補いました。
They are things anyone can do, or ask someone to do,
as long as they keep it in mind.
ユニバーサルデザインとは、ご存知のとおり
「できるだけ多くの人が利用できるデザイン」のことです。
Wikipediaでは、具体的に次のように定義しています。
「文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、
障害・能力の如何を問わずに利用することができる
施設・製品・情報の設計(デザイン)」
翻訳される文章は、書籍やWebサイトであれば不特定多数の読者、
実務文書でも組織内外のさまざまな関係者の目に触れるものです。
翻訳でも、「できるだけ多くの人が気持ちよく読める文章」、
“ユニバーサル・トランスレーション”を目標に、
これからも取り組んでいきたいと思います。
Photo by Craig ONeal