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2010年にISO 26000(社会的責任のガイダンス規格)が発効となって以降、
企業のCSRレポートで「ステークホルダー・エンゲージメント」という言葉が
明確に打ち出されるようになりました。
私がこの言葉に出会ったのが、まさにCSRレポートの翻訳でしたので、
企業からの働きかけという意味合いが強い印象でした。
しかし、 2015年のCOP21の前後から、投資家が企業に対し、
保有株式に付随する権利を行使して、気候変動リスクやCO2排出規制が強化された場合のリスクに対応する経営戦略の実施を求める「エンゲージメント」が、
気温上昇を2度未満に抑えるシナリオを実現するためのアプローチとして、
欧米を中心に拡大しています。
担当した翻訳の中で、上記の文脈で engage, engagement が頻繁に出てきて
改めて、この言葉を調べなおすと、いくつかの発見がありました。
1. もともとは、フランス語の「アンガージュマン」(第二次大戦後、サルトルにより
政治的態度表明に基づく社会参加を意味する実存主義の用語として使われ、
現在一般に意志的実践的社会参加を指す<広辞苑第六版より引用>)に由来すること。
2. ISO26000規格そのものが、持続可能な発展への貢献を実現するために、
あらゆる種類の組織に適用可能な社会的責任に関する初の包括的・詳細な手引書
であること。
3. 欧米でエンゲージメントと同様に拡大しているダイベストメントは、
特定の企業への投資からの撤退、あるいは年金機構がそのポートフォリオから
特定の企業を排除することで、株主としての地位を失う手法であり、
エンゲージメントと全く対照的なものであること。
ダイベストメントを企業に「見切りをつける」アプローチとすれば、
エンゲージメントは、組織がその社会的責任(SR)を果たすために
ステークホルダーとともに進んでいこうというアプローチでしょう。
さて、engagement をどう訳すか。
組織がステークホルダーと互いの見解を交換し、期待を明確化し、相違点に対処し、
合意点を特定し、解決策を創造し、信頼を構築するための協議プロセス、
このすべての働きかけがエンゲージメントです。
これはengage のもう一つの意味「歯車がかみ合う」そのもののように思えます。
精巧な時計のムーブメントは、たくさんの歯車がしっかりとかみ合い、
互いに働きかけあいながら、時計の針を動かしていきます。
さまざまな社会課題の解決は、時間がかかったとしても、
このようなエンゲージメントによってこそ、確実に進んでいくように思います。